Aさん(男性)は病気の奥さんと老犬と暮らしています。記憶が保てないのと難聴があり、やり取りする時は同じ話しを繰り返します。「なんか変だ。頭がおかしくなった」と言われて頭を抱えることもしばしばあります。
病気の奥さんはここ数ヶ月で入退院を繰り返しており、奥さんが入院をするたびに「母さんが帰ってこない」「入院したのか!そんなに悪いのか」と大混乱。「母さんから電話も来ない」「病院に行ってくる」と言われるたびに「入院してると言うことは治療中なので電話できませんよ」と伝えていたのですが、ある時「母さんが入院してるって本当か。俺を騙してるんじゃないか」「本当はもう生きていないんじゃないか」と言われ、一緒に面会に行きました。記憶が保てないので会わせても仕方がないと考える人もいるかもしれませんが、Aさんは会った後は同じように「母さんから電話こない」とはいいますが「もう生きていないんじゃないか」と言うことはなくなりました。
奥さんの病状や認知症のAさんとの暮らしは限界ではないかと感じることが増え、Aさんには「Aさんは認知症だから記憶が保てないんですよ」と話しをするようにしました。それは、前に一度奥さんから施設を探してほしいと言われて調整まではしたものの、Aさんにどう話して入所してもらうのかというところで行き詰まったことがあったから。騙して無理やり入所させることはしたくなかった。今のAさんとは会話ができる。記憶が保てなくても、その時の気持ちを聞くことや今の現状を説明することはできると考え、正直に話し合おうと思ったからです。「認知症ってなんだ?」と聞かれて「脳の働きが低下して忘れてしまうんだよ」と説明すると「そうだ、すぐ忘れるんだ。その通りだ」と返事をし、その後決まって「でも俺ももう年だからな。そうなったっておかしくないぞ」と笑います。「私もそう思うけど、お母さんの病気のことを考えると、いつまた入院になるかわからないし、退院できなくなる日も来るかもしれない。一緒にいる時間もAさんは初めて話すことでも、奥さんは何回も聞いていることで疲れてしまうよ。耳も聞こえないから大きな声を出さなくてはならないから息切れしちゃう。今のうちから認知症の人が暮らす施設があるんだけどそこで暮らさない?」と話しをすると即座に「嫌だ。俺はここがいいんだ。1人で施設なんて行かない。どうしてもっていうなら、母さんが帰ってきてから考える」としっかり答えます。
奥さんの病院からは旦那さんは施設に入らないのですかと質問があります。奥さんの病状と一緒に病院に来たAさんの様子を見ている医療関係者からすると、そう考えてもおかしくないと思います。奥さんにも入院中に、Aさんとの暮らしはもう限界なのではないですか。施設をもう一度探しませんか。Aさんが施設に慣れるまで何度も会いに行きますよと言ってみましたが、奥さんにも考えがあり施設入所は希望されませんでした。
入退院を繰り返すたびに奥さんの病状は悪くなっていますが、回数を重ねるごとにAさんは家で老犬と奥さんの帰りを待つことに慣れてきました。台所もきれいに片付け、洗濯機を回して「干せたら干しておいてください」と伝えて、次訪問に行くと干してあったり、奥さんの心配は変わりませんが混乱することは減ってきました。所々の記憶と、その都度説明されることへの納得と、春の歌の職員への信頼が積み重なって落ち着いた気持ちに変わってきた。そんなAさんを見ていると、認知症だから家で暮らせないというのは間違いだなと思いました。
どこまで今の暮らしを続けられるのかわからないけど、これからも会話を繰り返し、Aさんが納得する暮らしができたらいいなと思います。
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